志村貴子『起きて最初にすることは』感想
深夜に思い立って本棚から取り出しがち、何度も読み返してはため息をついてしまう、大好きなこの一冊をご紹介!
志村貴子さんの『起きて最初にすることは』。
百合というジャンルが大好きなわたしにとって、アウトサイダーながらも「百合」の代表格を担う『青い花』という愛してやまない大切な作品があるのですが、志村貴子さんはその作者さんでありまして、発売初日に作家買いしてしまうほどに大好きな作家さんなのです。
不憫なBL
親の再婚で突然出来た弟は 生意気で 素っ気なくて やりチンで…
でも可愛い。
欲情が甘く痺れる ダメ恋ボーイズラブ♥
親同士の再婚によって突然できた、2才年下のかわいい弟、夏央に想いを寄せてしまう兄、公崇。 「不憫BL」に連載されたとだけあって、この片恋、ほんとうに不憫なんです…。
男とHしてるところを見られてしまう、あるあるなバレ方をしてしまい、懐かれていた夏央に嫌われ、ゲイであることを学校でも言いふらされ、散々な目にあった公崇は不登校→退学→ニートの道へ…。つらい。
これだけでも不憫なんですが、夏央がどれだけ女関係にだらしないやりチンでも、面と向かって冷たい言葉を吐かれたとしても、
公崇はそれでも夏央のことを、どこまでも一途に(激しく)(粘着質に)(かっこ悪く)想い続けてしまうんですねー。
切なさ200%
起きて最初にすることは 君の寝顔を確認すること
起きてるときの君はクソみたいにかわいげがない
かわいげのない君を めちゃくちゃに 犯してしまいたいと思う
だけどやっぱり愛したい
愛したいし愛されたい
やさしくしたいしやさしくされたい
このモノローグ、すばらしいです。公崇の夏央に対する、ぐちゃぐちゃにいろんなものが混ざった感情が切なくて悲しくて。そんな切ない恋愛、やめちゃえよー。と言いたくなります。
ですが!この作品、なんと、片恋だけでは終わりません。
公崇のストーカーじみためちゃくちゃな押しにずるずると流されてしまい、あんなことやこんなことも受け入れてしまう夏央。これこそ誘い受けでしょう。
公崇の言動を嫌悪しつつ、どこか満更でもないような夏央のかわいい表情に、
これ、いけるんじゃないの??もっと押していけ公崇!
とガッツポーズを決めたのはきっとわたしだけではないはずです…。
ついにはノンケであるはずの夏央ですが、過去に公崇に抱いていた憧れに似たけなげな想い(?)までも発覚したりしなかったり…
ラストシーンは今後の二人の新しい関係を匂わせるような余韻を残しながら、ゆるやかに収束していきます。
この作品、(というかこの作者さんの作品)決してわかりやすいコマ割りではないし、回想が突然始まったりして、「え?」と一瞬戸惑うこともあるけれど、そのとっつきにくさがあるからこそ、何度読み返してもおもしろいなあと思います。
登場人物の感情の機微が繊細なタッチで表現されることによって、ダイレクトに気持ちが伝わってくる、稀有なBL作品ではないでしょうか。
未読の方は、ぜひ、読んでみてください。