日々の泡

読んだマンガの感想をひたすら綴るブログ。

心ひりつくガール・ミーツ・ガール「さよならガールフレンド」感想

 

田舎の「閉塞感」は、経験したことのある人にしか中々わかってもらえないと思います。わたしがかつて住んでいたのは電車が1時間に1本だけの不便な場所でした。仕事といえば工場や土木、いくつかあるスーパーのレジ作業くらいしかない。

田舎を離れるまでは、あの土地の魅力に気づくことができませんでした。センチ単位で測られるスカート丈、無駄に広いドラッグストアや、メジャーどころばかり陳列したつまらない本屋が嫌いでした。毎日を憎んでいた高校生のわたしは早くこの土地を出て、くだらない親の愚痴ばかり聞かされる生活から逃げることばかり考えていたような気がします。

 

今回ご紹介するのは、高野雀さんの「さよならガールフレンド」。田舎町を舞台にしたガール・ミーツ・ガール作品である表題作を読んで、「あの頃」感じていた切実な苦しさが、リアルに蘇ってきました。苦くて痛くて懐かしい青春を描いた作品を集めた短編集です。

 

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「わたしが男子だったら 先輩とは絶対にやりません」

そうして何もできずに ひっそりと側にいる 

 

・「さよならガールフレンド」

作品の舞台は田舎の狭い町、ねっとりとした暑い空気の漂う夏。高校三年生の滝本ちほはこの町の何もかもが嫌いだった。彼氏の高岡くんは「ちほがさせてくれないから」なんてよく分からない理由で、町でうわさの「ビッチ先輩」と一晩の浮気をした。近所のコンビニで働いていた「ビッチ先輩」は変わっているけどやさしい人で、彼氏と一緒にいるより心地いい。ちほとビッチ先輩は不思議な交流を深めていくー。

 

現実から逃げられず、未来に希望なんてなかったけれど、先輩と一緒にいるといつもより楽しい。ちほにとって先輩は、息苦しくて狭い世界を、少しだけ変えて見せてくれる存在でした。

 ちほは東京の大学に合格し、住み慣れた田舎を出ていきます。今までの思い出と、ちほのように田舎を出ていくことができない先輩を置いて。飛行機の中で先輩から届いたメールを見たちほは、先輩に抱いていた特別な感情を自覚します。

 

ちほとビッチ先輩は、きっとこの先もう交わることがないんだろうなと、なんとなくそんな気がします。

どこまでも付きまとってくるような怠くてうっとおしいような雰囲気が作中に漂っています。工場の煙や先輩のタバコのにおいまで想像できるのは、やはり稀有な作品です。思春期の少女のどうにもできない現実を、ひりつくような痛みを交えてフラットに描いた1編。

 

・面影サンセット

年を重ねていく自分とくたびれていく彼氏。どんどん時間は過ぎていくのに、わたしたちの生活はちっとも変わらない。

・わたしのニュータウン

昔からの友達が彼氏の転勤で遠くに行ってしまう。それだけのことなのに、なぜかとても胸が苦しくてー。

・まぼろしチアノーゼ

「女の子」になれない女性が、「女の子」のジレンマを目の当たりにする話。クズな男の人に振り回されて傷つくのなんてやめなよ、といいたくなります。

 

まとめ

紹介した他に2編の短編が収録されている短編集。どの作品もハッピーエンドもバッドエンドもない、私たちのリアルと地続きの話です。

高野雀さんは本作がデビュー作とのことですが、とても新人作家の書いたものとは思えません。温度の低い絵柄とシャープな切り口が魅力です。これからの活躍が期待される、新鋭女性作家の一人ではないかと思います。

 

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