日々の泡

読んだマンガの感想をひたすら綴るブログ。

【密度の高いギャグ漫画】アラサー女性が思いの丈をぶちまける「波よ聞いてくれ」感想

いきなりですがラジオが好きです。毎週木曜日の10時からは、大好きなアイドルによるラジオ番組が放送されているのですが、その時間が近づくといつもソワソワしてしまいます。


ラジオにはふたつの魅力があるように思います。1つ目は、「いつでもハプニングが起こりうること」。例えばリスナーと繋げた電話がいきなり切れちゃったりすると、パーソナリティの咄嗟の面白い反応が伺えたりします。2つ目は、「話し手との距離が近いこと」。観客の顔がみえないせいか、テレビに比べ本音でしゃべっている印象を受けます。あなたの好きな芸能人も、新しい一面を見せてくれるかもしれません。


今回はラジオと恋愛についての作品、「波よ聞いてくれ」というタイトルの一冊をご紹介します。作者は「無限の住人」「ハルシオン・ランチ」で知られる沙村広明です。

 

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鼓田ミナレというキャラクター

おしゃれなカレー屋でバイトをしながらなんとか日々の生計を立てている、本作の主人公「鼓田ミナレ」は、オーバー25の独身女性。彼女のたぐいまれな個性は、その場にいる人を巻き込むマシンガントークです。彼女の巧みな喋りには、人が心の奥で思っていることを明確な言葉にしてくれるような爽快感があります。

ミナレには酔っ払うととんでもないことをしでかす癖があるのですが、クダを巻きながらうっかり暴露してしまった失恋話もその一つ。彼氏への恨みつらみを傍で聞いていた初対面のラジオ局員によって録音された挙句、なんと生放送のラジオで流されてしまいます!

怒りと恥ずかしさにまかせバイトをほっぽり出し、ラジオ局に乗り込んで(不本意ながら)放送をジャックしてしまうミナレ。彼女はマイクに向かって思いの丈をぶちまけるのです。

 

「私は彼の独善的な部分を男系社会だから まーしゃあないかなと放置していました ラクだったからです カテゴライズして諦めれば彼の欠点に真摯に向き合わずに済んだからです

「多分 彼は彼で私に対してそうだったんだと思います その結果 彼は犯罪紛いの事をして私から去っていきました こんな虚しい男女関係ってあるでしょうか!?…」

 

口達者な話術でリスナーを巻き込んだミナレは、そして最後に叫ぶのです。日本のどこかで放送を聞いているかもしれない、逃げられた彼氏「光雄」に向けた怒りを込めた一言を…

 

「そして最後に言わせてください

光雄!お前は地の果てまでも追い詰めて殺す!

 

アー、かっこいいですミナレ姐さん!この一ページを捲った瞬間、全身がビリビリ痺れるような衝撃が走りました。

以上のご縁(?)をきっかけにラジオ局からスカウトされるミナレ。強面顔のディレクターにまんまと乗せられ、自分の冠番組を持つ羽目になります。冠番組の名前は、そう、タイトル「波よ聞いてくれ」!ラジオとカレー屋のアルバイトの仕事を掛け持ちしながら、ミナレの新しい生活がスタートすることに。

 

ハイテンポで進むシュールなギャグ

この作者にしか描けないような、テンポのいいギャグが作品の魅力の一つ。私のお気に入りは、酔っ払って帰宅、自宅に侵入した暴漢を背負い投げ、警察に通報したはいいものの…ミナレが寝っ転がっていたのは、階下の住人である「沖さん」という男性の部屋の玄関先だった、というおばかなエピソードです。沖さんはいつも酔っ払ったミナレを上まで背負って届けてくれていたことが発覚し、ミナレは「公害レベルの破滅型」であったことが分かるのです。彼女の酔い癖の悪さに笑いを堪えきれませんでした。

 

ミナレを取り囲む個性的な面々

ミナレのカレー屋の店長は、おしゃれなコンセプトが大好きな中年のゲイ。ミナレを慕うカレー屋の後輩、中原くんは熱血青年で引くことを知りません。ラジオ局で働く瑞穂ちゃんは温和で家庭的な女の子だけど実は超の付く几帳面な一面が。後半登場する一癖二癖もありそうな美人はなにやら不穏な空気を漂わせており、ディレクターはキツイ正論でミナレの心をグサグサ刺しつづけます。実にアクの強い面々が揃っており、ミナレと彼らの会話の応酬は痛快です。

 

最後に

濃いキャラクター、良く練られたエピソード、逸脱なギャグに加え、丁寧に書き込まれた背景や小物が印象的。熱量の込もった太い線で引かれる衝動は心に突き刺さるようです。熱くて笑えて面白い漫画が読みたいな、という方にぜひ、お手に取っていただきたい作品です!

 

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