日々の泡

読んだマンガの感想をひたすら綴るブログ。

【趣味と年齢】「好き」を貫くことの難しさを描く「コンプレックス・エイジ」感想

社会からの偏見、加齢などの問題によって、大好きな趣味をあきらめなければならなくなったとき、あなたはどうしますか?

今回はゴスロリ、アイドル、コスプレなど、周囲から理解されづらい趣味を持つすべての方に読んでほしい作品、佐久間結衣さんの「コンプレックス・エイジ」をご紹介します。

 

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(本作は2015年9月に発売された6巻で完結しています。)

 

「楽しめ。血を流しながら。」 

 

簡単なあらすじ

主人公の「片浦渚」は26歳の派遣社員。高い身長がコンプレックスだった渚はある時、小さくてかわいらしくて、自分の持っていないものを全て詰め込んだような魔法少女「ウルル」に出会います。それから彼女は「コスプレ」という趣味に夢中で打ち込むようになりました。衣装をつくり、ポージング教室に通い、表情を練習し、アニメからそのまま抜け出したような、「完璧なウルル」を目指して。しかしそんな渚の前に現れたのは、自分よりも若く、背が小さくて、自分よりもずっと「ウルルらしい」女の子、栗原綾という少女だったのです…。

 

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(「コンプレックス・エイジ」42p)

コスプレを愛する主人公が直面する「現実」

本作品は一般的に理解を得ることが難しい、「コスプレ」という趣味に対する周囲の偏見が描かれており、コスプレイヤーの渚は居心地の悪さを感じています。

 

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(「コンプレックス・エイジ」143p)周囲からの偏見

 

コスプレという趣味が抱える問題はそれだけではありません。

写真を求められ最高の笑顔をきめているとき背中に浴びせられる、「デカババアキモッ」という罵声。ネットブログにさらされる、下着のみえた自分のコスプレ写真。「加齢」「男性からの視線」など、読んでいるだけで胸がじくじく痛んでくるような現実が次々と渚に降りかかってきます。渚は気にしないよう努めていますが、その姿がまた痛々しくもあります。

 

「コスプレ」という趣味の「楽しさ」

そんなに苦しい思いをしてもなぜ、彼女はコスプレという趣味をあきらめないのか。

努力を重ねて憧れのキャラクターに近づこうとすること、写真に収めた自分の姿に出会うこと。「コスプレの魅力」が熱っぽく描かれています。コスプレに関してまったくといっていいほど知識がない私ですが、キャラクターの体型や衣装を再現するのにかけている労力と時間にはとても驚かされました。

 

同時掲載・コンプレックス・エイジ読み切り版

本作1巻には、「コンプレックス・エイジ」の元になった作品も掲載されています。
こちら読み切り版の主人公は「ゴスロリ」を趣味とする、35歳の既婚女性「佐和子」。「渚」と同じように、加齢によるジレンマと偏見に対する悩みを抱いています。

 

私の心を刺したのは、お茶会で若い女の子が佐和子にかけた心無い言葉です。

「引際って大事なんだって 若い内って努力でなんでも出来ちゃうじゃないですか でもそれって永遠じゃないんですよね」

つらい…。趣味にも引際があるんでしょうか。

 

佐和子は終盤、鏡に映った自分の姿を不意に見て衝撃を受けます。

 

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(「コンプレックス・エイジ」p175)

 

お姫様のような衣装を身にまとうことに夢中だった佐和子の心を打ち砕いたのは、「いつのまにか老けていた自分の姿」でした。

 

年齢を重ねるうちにゴスロリが似合わなくなっていた自分に気づいた佐和子は、大切な「趣味」を火にくべて、夫の胸で泣きじゃぐります。どんな時もそばにいてくれる大好きな人の存在を知った佐和子は、街中でかつて夢中になっていたゴスロリ服を目にしても、後悔を感じることはありませんでした。すっきりとした顔をみせるラストは思いの外爽やかです。

 

佐和子は趣味と決別しますが、果たして「渚」は今後数ある選択肢の中から、何を選び取るのでしょうか?彼女は自分の「好き」を貫くことができるのでしょうか。

 

最後に

「理想と現実のギャップ」「女性の加齢」「周囲からの偏見」等々、重いテーマを扱っています。心に深く突き刺さるセリフやモノローグが多いので、覚悟を持って読むことをおすすめします。しかし、高い壁にぶつかっても諦められないコスプレという趣味の「やめられない楽しさ」もまた描かれており、好きなことに情熱的に打ち込む渚たちの姿はとても素敵だし、応援したくなります。コスプレのことをよく知らない方でもどこかに共感する部分があるのではないかと思います。是非お手にとって読んでみてはいかがでしょうか?

 

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