あの頃大好きだった友達は、今どうしているんだろう。「あんずのど飴」感想
中学生のとき、高校生のとき、いつも一緒に笑い合っていた友達のことを思い出して切なくなることはありませんか?
先の見えない不安な進路、クラスで気になる男子、面白いテレビや、お気に入りの芸人の話。一度口を開けば、とめどなく話題が出てきて、時間が過ぎるのがあっという間だったのに。
大したことじゃないことで気まずくなって距離の開きは埋まらずに、いつのまにか連絡先も知らないほど遠くなってしまった、大好きだった友達がいます。
今更どうしようもないことですが、思い切って歩み寄ってみたら何かが変わっていたのかなあと考えることがあります。
今回ご紹介するのは、些細なことで変化していくふたりの少女の友情を丁寧に描く「あんずのど飴」という青春物語です。
冬川智子「あんずのど飴」
あらすじ
この甘さが、私にあの頃を振り返らせる。
田舎の高校。なんにもない風景。ささやかな友情。淡い恋心。そして、すれ違い――。
10年ぶりに振り返る、あの頃。夢とか希望とかよくわからなかった、あの頃。
平凡な女子高生だった、あの頃。私が大好きだった彼女は、今どうしているんだろう。
『マスタード・チョコレート』で第15回文化庁メディア芸術祭マンガ部門新人賞を受賞した気鋭の著者による、切なさあふれる青春物語。
作品の特徴
1、キャラクターの顔はまるっこくデフォルメされており、シンプルな猫線にあたたかみが感じられる独特な絵柄です。
2、大きな出来事が起こるわけではなく、ふたりの関係性が変化していく様子を淡々と描いています。離れていくふたりの距離に、切なさを煽られます。
3、登場人物の心の機微がよく伝わってくるモノローグがとても印象的です。
ふたりのキャラクター
主人公の要(かなめ)は長いストレートの黒髪の個性的な顔立ち。何でもそつなくこなせて、周囲から尊敬される存在です。友人のはるかはさえない女子高生。彼女は眉毛を抜いて、スカートを短くして、どんどんおしゃれな女の子になっていきます。
はるかは男の子に恋をして、ブランドやかわいい雑貨に関心を持つようになり、要とはまるでタイプの違う女の子とばかり話すようになります。そして要が気づいた頃には、ふたりの距離はもう簡単には埋められないほど、大きく開いていたのでした。
「はるかと私の間には、小さな、川のようなものができていた。対岸にいるはるかは、あまり笑顔がなくなっていって、川はどんどん大きくなっていくのだった。」
しかし、関係がこじれつつあることに気づきながらも、はるかをいつでも大切に思う要の姿は非常に健気です。はるかが貧血で倒れたときには要がまっさきに駆けつけて、保健室に運んで看病するし、クラスメイトの女の子にはるかの性格を悪く言われたときには、そんな子じゃないよときっぱり否定する優しさがあります。それでも結局、ふたりは仲良くお弁当を食べていたころのように、何でも気軽に話せる気ごころの知れた関係に戻ることはできませんでした。
「要ちゃんて何もしなくてもなんとなく一目ひいて、目立ってたし、私ばかり頑張って、馬鹿みたいだったなあ」
同窓会で語られる、はるかの本心からの言葉はとても切ないです。はるかは何でもできる要がうらやましく、そして妬ましかったのかもしれません。だから要から距離を置かずにはいられなかった。はるかの苦しさがこの言葉から垣間見えるような気がします。
最後に
シンプルで単調だからこそ、感情を揺さぶられる作品。作者さんの瑞々しい感性に惹かれます。かつて中学生、高校生だったすべての人に、自身の青春時代を思い返しながら読んでいただきたいです。かけがえのない友人といっしょに時間を過ごした「あの頃」に、思いを馳せてみてはいかがでしょうか。