ポップな絵柄にのせた絶望 福島鉄平短編集『アマリリス』感想
こんばんは!今夜ご紹介するのは福島鉄平さんの『アマリリス』です。
表題作の作品は衝撃的なテーマ、内容で話題になっていたそうです。あとがきにもありましたが、確かに少年ジャンプには載せられないテーマだなあと思いました…。どちらかといえば青年誌寄りな気がします。
この短編集、少年愛、BL、百合、女装、ショタなど、タブー視されがちな、いわゆる変化球の作品が多く掲載されているのですが、胸にぐさりと刺さる痛いお話もあれば、心にじわりと染み入るあたたかいお話もあり、「すごいもの見たなあ…」という充実した読後感がありました。
短編集は作者さんの持っている引き出しをたくさん見られるというお得感があるのでよく読むのですが、間違いなくこの『アマリリス』という短編集、「傑作」と呼べる類のものではないかと思います。
ではこれから、いくつかの作品の簡単なあらすじ説明&感想に入っていきたいと思います!
アマリリス
親に捨てられ、借金返済のために「へんたいのおじさん」に売られた少年、ジャン。女装しておとなのお店で働く中、街で同い年の少年、ポールと出会います。二人はある児童小説をきっかけに仲を深めていき、ジャンはポールと過ごす時間を大切に思うようになります。しかし、ポールの純粋さを目の当たりにする中、自分のやっている仕事が際立って「きたなく」思えて、ポールと一緒にいる自分を後ろめたく感じるようになったジャンは…。
短編集の中では一番好きな作品です。
少年二人の友情?愛情?の話。子どもから大人への通過儀礼、セクシャルな事物についての戸惑いや嫌悪感について、繊細な心情表現で描かれています。
親に捨てられる前まで自分が存在していた、学校や部活動のある「社会」からジャンが一人隔絶されていく過程がセリフ、コマ割りによってとても丁寧に描かれており、ジャンの戸惑いや不安、絶望の感情が良く伝わってきました。(日本と西洋の融合が散見される不思議な世界観が描かれており、キャラクターとの距離が近く感じられたことも印象的でした。)
モノローグも非常に印象的です。ラストページでは、純粋なものに触れることをあきらめたジャンの後ろ姿が切なさを煽ります。自分ではどうにもできない問題によって未成年が苦しめられる構図、というのはいろいろ考えさせられるものがあるなあと思いました。
イーサン飯店の兄弟は今日も仲良し
心があたたまる&胸がスカッとする兄弟愛のはなし。決めるときは決めるお兄ちゃん、かっこいいです。
ハルよ来い
山の神様に育てられた少年が主人公。一味違う親子愛、すれ違ってから分かり合うまでを描いています。
ルチア・オンゾーネ、待つ
わがままで自己中心的、だけど本当はさみしがりやな12歳の少女、ルチアは孤児院で父の迎えを待っています。いつも部屋の隅にいた不思議な黒髪の少女、ベッラとふとしたきっかけで距離を縮めるルチア。初めてできた「友達」と呼べる存在がうれしくて、プライドの高いルチアも笑顔を隠せません。しかし、ベッラの本当の正体は…。
百合要素、ありです!!!(高まる)友情と愛情の間を揺れ動くガールミーツガール。ミステリアスなベッラに振り回される、プライドの高いルチアのかわいさがたまりません。ルチアとベッラの絆の深さを感じさせる、余韻の残るラストシーンも素敵です。見栄っ張りな女の子は本当にかわいいですね。(まとめ)
私と小百合
体育会系男子を苦手に思っていた女装少年が、いつのまにか一生懸命彼をたぶらかしてしまうお話。かわいいです。もっと尺をつかって描いてほしい。
アマリリス【epilogue】
アマリリスの続編。数ページながら、つい涙してしまいました。内容は是非ご自身でお確かめください。
最後に
福島鉄平さん、これからも追いかけていきたい作家さんの一人になりました。
『スイミング』という水色の表紙のもう一つの短編集の方は、「恋」をテーマとした、かわいくて明るくて、爽やかな読後感の作品がたくさん詰め込まれています。こちらも合わせて、秋の夜長にお読みになってはいかがでしょうか?