【直球百合で脱王道】恋を知らない少女と少女。「やがて君になる」感想
今回ご紹介するのは、仲谷鳰「やがて君になる」(電撃コミックスNEXT)
電撃コミックス大賞金賞を受賞した新人作家さんの描くガールズラブ作品です。
わたしを好きな、わたしの先輩。
好きを知らない少女が出会う、一筋縄ではいかない恋愛。
あらすじ
人に恋する気持ちがわからず悩みを抱える新入生・小川侑は、生徒会の先輩・七海燈子が告白を受ける場面に遭遇する。誰からの告白にも心を動かされたことがないという燈子に共感を覚える侑だったが、やがて、燈子から思わぬ言葉を告げられる。「私、君のこと好きになりそう」
作品の特徴
線の細いきれいな絵。登場人物の繊細な感情の動きを、セリフやモノローグなどの言葉だけでなく、絵やコマ割り、トーンなどの表現によって伝えているところが面白いです。適度な「間」によってゆったりとした空気感が伝わってくるところが素晴らしいと思いました。
恋を知らない少女の「不安」と「焦り」
当たり前のように恋愛を楽しむ周囲の友人たちに焦りを感じながら、この先もしかしたら人を好きになることなんてないかもしれないと不安を抱える侑。恋を知らない侑にとって、「好き」を見つけた先輩の姿は、まぶしい光に包まれているように見えます。
「ずるい 七海先輩はわたしと同じだと思ったのに 手を握ったくらいでそんな顔するなんて 先輩はもう特別を知ってるんだ」、恋ができない侑の不安と焦り、そして「恋愛への欲望」を感じさせるモノローグが印象的でした。
キャラクターの外見と内面のギャップ、ストーリー展開が新鮮!
本作品は「侑」と「先輩」、ふたりの少女の関係性の変化、それに伴うキャラクターの内面の揺れ動きを描いています。
ショートヘアを無理やり二つ結びにしたような髪型の「侑」は、どちらかというと「かわいい」見た目の女の子。しかし、彼女は先輩とのファーストキスにも心動かされない、(頬も染めない!)ドライな性格の持ち主です。
一方、黒髪ストレートロングの生徒会長、絵に描いたような優等生の「先輩」は「クール」な容貌をしています。ところが、話が進むにつれて彼女は「侑」を好きな気持ちを抑えられず、彼女に甘えたり、甘い言葉をつぶやいたりするようになります。ふたりのキャラクターの外見と内面とギャップに驚かされました。
また、ストーリー展開も新鮮。単巻ものばかりだからか、百合作品の多くは「出会い」→「恋に落ちる」→「告白」→「実は両思いだった」→「付き合う」といったように、とんとん拍子に事が進む印象を受けます。
しかし本作品は「一筋縄ではいかない恋愛」を描いており、「侑」は今のところ先輩を好きになる様子を見せていません。「百合」作品としてみても、ゆっくり進展する少女同士の関係を楽しむ事ができる、新しさのある作品ではないかと思います。
最後に
絵がきれいで、ストーリー展開やキャラクター設定が斬新な作品です。「百合」が好きな方にはもちろん、そうでない方も楽しめる作品なのではないかと思います。少しずつ変化していくふたりの関係性に心揺さぶられてみませんか。