飛び抜けたセンスを感じられる構成に嘆息「透明人間の恋」感想
今回紹介するのは、安藤ゆきさんの短編集「透明人間の恋」(マーガレットコミックス)です。おしゃれな表紙に惹かれてなんとなく買ってみたのですが、作者さんの他の作品もぜひ読んでみたいと思いました。
私は透明人間
昔から存在感がうすくて
それが私の普通だって思ってた
あらすじ&感想
・そこは注文の多い料理店
主人公の行きつけのレストランには意地悪な料理人がいる。彼はいつも主人公の注文に、「肉に白ワインなんかありえない」「そのチョイスは良くない」などとチクチク言葉をかけてきてー。鉛筆のような線で描かれた画面が味のある作風です。
・透明人間の恋
見かけを気にしない、地味な女の子が生まれて初めての告白。返ってきた言葉は「あんた、鏡みたことあんの?」というキツーイ言葉。久しぶりに鏡をみてみると、眉毛はつながり、うっすらとヒゲのある自分の顔!そんな自分を変えようと、一念発起するけれどー。
誰からも気づかれない空気のような存在だった主人公のことを、唯一気にして声をかけてくれた男の子。はっきりした性格で言葉はきついけど、そりゃ好きになっちゃうよなーと思いました。女の子の笑った顔はやっぱり何よりも素敵です。
仁那と遊理は小学生の頃から幼馴染の腐れ縁の親友同士。10歳の頃、仁那がマトリョーシカに忍ばせたメッセージに遊理は気づいてくれなくてー。ふたりの絶妙な距離感がもどかしくもあり切なくもある作品。
関係が近すぎるがゆえに、自分の本当の気持ちになかなか気づけない遊理に、この鈍感!と声をかけたくなる。遊理にもらったピアスをずっと大切につけている遊理の一途さがかわいいです。
・勝手な2人
付き合っていた彼氏に振られたハルは楽天的な性格。彼女が知り合ったのはむすっとブスっとしてるけど本当は心優しい要くん。他人に気を遣うあまり、いつも本当の自分を隠してしまう彼にハルはー?
正反対に近いけど、ある共通の部分が存在するふたりが、少しずつ心の距離を縮めていく様を描いています。
・drops.
よくよく読み返すと登場人物のつながりが見える凝った構成になっている4編。
オムニバス形式の短編で伏線回収のされるものは数多く存在しますが、本作品は別格です。キーワードは雨と傘、それにまつわるトラブルやハプニングで人とのつながりが生まれていくところがおもしろく、一番のお気に入りになりました。
まとめ
すべての物語に心揺さぶられるところがある、すてきな短編集です。特に良かったのが最終編の「drops.」、登場人物の言葉やキーワードをリンクさせて物語をつなげるそのセンスに惚れ惚れします。他の作品も読んでみたいと思わせる力のある作者だと思います。