日々の泡

読んだマンガの感想をひたすら綴るブログ。

【センチメンタルギャグ漫画】この世界にあなたとわたし、ふたりぼっちの日常 施川ユウキ「オンノジ」感想

今回取り上げるのは、シュールでセンチメンタルな非日常系4コマ作品「オンノジ」です。作者は「バーナード嬢曰く。」「鬱ごはん」などで知られる施川ユウキさん。

 

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僕は結婚している それはただの「ごっこ」かもしれないけど

自分にとっては歴史的偉業だ

だから もし このまま世界が終わってしまったとしても ハッピーエンドだ

 

ある日突然、世界から人がいなくなり、ひとりきりになった少女・ミヤコ。
少し奇妙な無人の街で過ごすうち、”何か”の存在に気付いたミヤコは
それをオンノジと名付けてー。笑ったり、驚いたり、そして泣いたり。
非日常世界で暮らす少女とオンノジの日常4コマ。 

 

過去の記憶がすっぽり抜け落ちているミヤコは、電気も通じるし食料にも困らないけれど、自分以外の人間がいない街で暮らしています。暇を持て余す中、ミヤコはいつのまにかピンクフラミンゴになっていた元中学生少年と出会い、彼をオンノジと名付けます。広い世界で共通のさみしさを抱えて過ごしていたミヤコとオンノジは、いつしか互いを大切に思うようになります。ふたりは結婚することになり、無人の街で彼女らの自由で不安な日常は続いていくのです。

 

あらすじを読み返してもわけがわからないシュールなストーリーです。言葉遊びやボケとツッコミなど、くすりと笑える日常系ギャグ4コマが大部分を占めているものの、再度読み返したくなる、またしみじみと読ませるエピソードも組み込まれていておもしろかったです。SFミステリーや純文学のような読後感でした。

 

互いの存在を必要とする世界

 

ひとりぼっちだった世界が少しずつ開けて、ミヤコの心を占めるオンノジという存在のスペースがどんどん広がっていくところが良かったです。オンノジという他者に出会い、ひとりからふたりになってしまった後、再び世界に取り残されることを恐れるミヤコの不安が描かれたコマはあんまり切なくてぐっときました。

 

もしオンノジが突然死んでしまったら せいいっぱい想像してみた

この背中はただのはく製の背中 こっそり涙を背中の羽にしみこませる

これは死なない魔法 たくさんしみこませれば より魔法は強く効く

涙が止まらなくなった

 

ふたりだけの世界で繰り広げられるゆるやかな甘い日常風景に、突如投げ込まれるしんみりしたエピソード、その落差につい心が震えてしまいます。

 

ふたりのしあわせな結婚生活

 

中盤からはふたりのごっこ遊びのような結婚生活が描かれるようになります。制約のない世界で、自由に好きなことをして暮らすふたりの生活は拠り所がなく不安定です。ミヤコは今の世界が夢で、本当の自分はどこか別の場所にいるんじゃないかと考えたり、最初から全部自分ひとりの妄想なんじゃないかと不安になって泣いたりします。

 

夢みたいな生活がいつまでも続くはずがないとふたりが知っていて、物語がいつか終わってしまうことを恐れているようにみえるところがわたしたち現実世界の人間の抱く曖昧な不安とつながっているように感じて興味深かったです。

 

まとめ

 

物語の最後に描かれるのは、いつの間にか変わってしまった世界で、大切な人とつくりだしていく未来への希望でした。世界は理解できない謎に満ちているけれど、幸せな明日はなんとかつくっていけるかもしれない。センチメンタルで純真なメッセージが不安な心に元気をくれます。日常的に続いていく孤独と不安を感傷的な明るさで描いてみせた、唯一無二の傑作4コマです。

 

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