日々の泡

読んだマンガの感想をひたすら綴るブログ。

【おべんとうと地理学の世界】オーバードクターと中学生の不思議な同居生活「高杉さん家のおべんとう」感想

今回は柳原望さんの「高杉さん家のおべんとう」を紹介します。地理学専門のオーバードクター男性(30)と両親を失った女子中学生(12)の交流を描く作品。体の芯まで冷えてしまいそうな寒い冬の夜に読んでほしい、心あたたまるハートフルコメディです。

 

f:id:hotori1116:20151116195726j:plain

 

あらすじ

博士号は取ったものの無職で大学の研究室にいる温巳(はるみ)は未来への見通しもつかないまま日々を過ごす31歳。ある日歳若い叔母の美哉が急逝し、12歳の従妹・久留里くるり)を引き取る事に。他人に心を開かない久留里との共同生活。ふたりが近づくきっかけは「おべんとう」だった。

 
二人をの心を通わせる「おべんとう」

要領が悪くてうだつのあがらなそうなポスドクの温巳。フリーターのような身分の彼の心は日々未来への不安でいっぱいです。一方、久留里は無口で無表情、クラスでも友達をつくらず一人で浮いているような美少女です。コミュニケーションに難のありそうなふたりの共同生活が上手くいくはずもなく、無愛想な従妹と少しでも距離を縮めるため、温巳はおべんとう作りに奮闘します。

 

f:id:hotori1116:20151116195527j:plain

(「高杉さん家のおべんとう」p44)

 

久留里が母親につくってもらっていた「ハンバーグ」に取り組む温巳ですが、ソースの味がいまいち決まりません。研究者であるがゆえに、リサーチ能力と持久力が並大抵ではない彼は、深夜に自転車で街を駆け巡りながら同僚の家をピンポンして回ったり、他人の庭から山椒の枝を手づかみで採取したり…。そして翌朝、苦労して作ったハンバーグを食べた久留里のしあわせそうな笑顔を見て、達成感と喜びに浸るのでした。

 

おべんとうに喜ぶ「久留里」のかわいさ

f:id:hotori1116:20151116195537j:plain

(「高杉さん家のおべんとう」p24)

 

普段感情の起伏が読み取りづらい分、ふとした瞬間に見せる久留里の素直な笑顔に、温巳同様、心を奪われそうになります。周囲には「冷たい」「怖い」と誤解されやすいけど、ほんとうは不器用なだけ。料理なんてほとんどしたことがないくせに、同居人の温巳に一生懸命おべんとうをつくろうとする彼女はやっぱり年相応の中学生の女の子。食材の値段にシビアだったり、出かける際にはコンセントを抜いたりするところが不自然にしっかりしていてかわいいです。

 

研究者のフィールドで語られる「おべんとう」

おべんとう漫画の主人公がポスドク(しかも地理学)というのは、変わった人物設定だと思います。よく知らなかった研究者の事情が垣間見えるのが新鮮でした。フィールドワークとは何か、教授との不思議な上下関係について、学会での発表など、研究畠の話が細かく描かれています。また、研究者らしい論理的な考え方で久留里のおべんとう作りに取り組む姿勢がコミカルでおもしろかったです。

 

作品のメインテーマはお弁当を通した家族の交流だはあるものの、研究者を志望する主人公のエピソード、久留里の学校生活や同級生間での揉め事のエピソードなど、それぞれの登場人物の話が少しずつ絡みながら展開していくところが良かったです。

 

f:id:hotori1116:20151116195532j:plain

(「高杉さん家のおべんとう」p117)

 

印象に残った温巳のモノローグ

「1年先 2年先はわからないけど 少なくとも明日の昼飯は何とかできる 考えて工夫して充実させることができる
ほんの少し未来を作ることができるのなら そのまた先もそのほんの先もその先も きっと何かできることはある」

 

最後に

作中で語られているのは「互いに歩み寄ること、思いやることの大切さ」という普遍的なテーマです。少しずつ距離を縮めて、家族になっていくふたりの様子が丁寧に描かれており、静かな感動があります。(あらすじには「ラブ」とありましたが、その要素はそこまで強くないように思います。)

小さい頃母につくってもらっていたような、なつかしい味のお弁当がたべたくなる、ほのぼのあったかコメディです。よかったらお手にとってみてください!

 

www.amazon.co.jp