日々の泡

読んだマンガの感想をひたすら綴るブログ。

【ちょっぴり泣きたい夜に】真面目で不器用なあなたに寄り添う「余命¥20,000,000-」感想

 

 スマートフォンを使っていつでもどこでも誰とでも、簡単に連絡が取れる時代に生きているわたしたち。時々人とのつながりが苦しくなって、自分の殻にこもった生き方がうらやましくなることがあります。そんなときはこのマンガを手に取ってひと休みしてみるのはどうでしょうか?荒んだ心にそっと寄り添ってくれる優しさが込められています。

 

今回ご紹介するのは草野佑さんの「余命¥20,000,000-」という作品です。帯には

ソーシャルスキル重視の世の中に、一石を投ずる(?)問題作!!

 

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あらすじ

「私はもういいんだ」
自然消滅を願い、人に会うのも、働くのも拒否してきた草間さん。
「ちゃんと人と関わって生きていかないと」
失業青年・宇奈月くんは、ハロワ通いの合間に草間さんちを訪れるが!?
残金が0円になったとき、奇跡が起こり、くじで2千万円が大当たり!!
「とりあえず 2千万円なくなるまで生きていようかなって」
ゆるやかに消滅に向かう暮らしがスタート!!

 

登場人物

 

草間さん 

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(「余命¥20,000,000-」p12、鳥葬を願う草間さん)

 

無職の引きこもり女性(?)。素性は不明、人ぎらいで怠けもの。口癖は「消滅したい」。宇奈月と出会った当初は余命348円でしたが、宝くじで当てた2千万円と内職で貯めたお金で細々と計画的に暮らしています。

 

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(「余命¥20,000,000-」p148、宇奈月くんのうまくいかない転職活動) 

 

宇奈月くん

前職はパワハラにあって辞めてしまい、職探しにハロワに通う日々を送っています。社会への恐怖を抱え、いつでも不安な失業青年。真面目で要領が悪く、自分に自信が持てなくてネガティブな性格です。 

 

草間さんと宇奈月くんの不思議な交流

草間さんはなるべく人と関わらず、小さくて狭い世界で一人生きています。宇奈月くんは草間さんの生活を、「調和の取れた自己完結の世界」と表現しています。彼女の生き方は「まっとう」ではないかもしれませんが、お金がつきない限り誰にも束縛されませんし、何をするにも自分のペースです。

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 (「余命¥20,000,000-」p86、草間さんの世界)

 

一方、宇奈月くんは「ちゃんとした仕事に就かなければ、もっときちんとした人間にならなければ、社会から必要とされなくなる」という強迫観念に追い詰められています。両親から、職場の同僚からの期待に応えられないジレンマに悩み、同級生や隣人、世間サマからの視線を過剰なほど気にしています。なりたい自分になれなくて苦しむ彼の姿はカッコ悪くて情けなくて、悲しいほどリアリティがあります。

 

そんな宇奈月くんはつらいことがあって、どうしても立ち上がることができそうもないとき、草間さんの家を訪ねて彼女の姿を見に行きます。草間さんはあからさまに慰めの言葉をくれたり、建設的なアドバイスをしてくれるわけではないけれど、古い一軒家に草間さんがいて、彼女が楽しそうにしているところを見るだけで、宇奈月くんはなんだかほっと息をつけるのです。

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(「余命¥20,000,000-」p154)

 

ふたりの関係性と作品のスタンス

 

草間くんと宇奈月くんは彼女と彼氏でも、友人でも家族でもありません。ふたりは相手の心に踏み込まず、一定の距離を置いたまま、たがいに心地いいと思える不思議な関係を築いていきます。通常の展開であれば、草間さんは宇奈月くんを励ますだろうし、宇奈月くんは草間さんを「社会復帰」させようとがんばるかもしれません。けれどこの作品はきっとそのような道筋を好まないような気がします。


宇奈月くんが社会にもまれながら自分を変えたいともがいている姿と、草間さんが社会から疎外されたところでなんとか死なずにいようとする姿、どちらも許容している中立的な作品のスタンスがとても印象的です。ふたりの生き方に対して正しい、間違っているという判断を下すことは、読者に投げてくれているのではないかと思います。

 

最後に

 

後ろ向きの内容ながら、絵柄と細い描線の影響でほのぼのした雰囲気が漂っています。そのためテーマの割に重さがなく、すらすらと読み進めることができるところが良いです。はたらき方や生き方について、少し立ち止まって考えさせられる作品です。

不器用に生きるすべての人たちに向けたやわらかいエールを感じました。押し付けがましくないやさしさで読者を包んでくれるはず。なんだか眠れないという夜に、お手に取ってみてはいかがでしょうか。

 

 

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【良質百合】何度も読み返したくなる中毒性「終電にはかえします」感想

今回ご紹介するのは、百合に興味があるけれど、何を読めばいいかわからない…という人に自信を持っておすすめしたい一冊!「甘々と稲妻」で知られる雨隠(あまがくれ)ギドさんの初ガールズラブ作品です。

6作品が収録された短編集で、片思いの三角関係、幼馴染の幽霊、姉の友人を好きになった妹など、女の子同士のいろいろな関係性が描かれています。

 

雨隠ギド「終電にはかえします」

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ひらがな線、あいう駅より

あらすじ

お嬢様系の美少女あさぎは、通学電車の中で後輩のツネと知り合う。クラスで浮いている様子のツネが自分にだけなついているのは気分がいい。それだけのはずだったのに、初めてツネの姿を目にしたあさぎは……? 

 

サッカー選手と結婚して玉の輿を狙う「あさぎ」は、かわいい見た目に反して中身は黒く、計算高いところがある女の子。あさぎの後輩の「ツネ」は金髪マスク姿で、制服のスカートの下にジャージを合わせるというヤンキーのような容貌をしているけど、人懐っこくてかわいらしい一面を持つ女の子です。

 

私のお気に入りシーンはこちら。

 

ツネが初めてマスクをはずしたところを目にするあさぎ。

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(「終電にはかえします」15p)

 

そしてこの反応です。笑

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(「終電にはかえします」p16)

 

このあと思わず涙してしまうあさぎの信じられないかわいさときたら…。あさぎのこともツネのことも愛おしくて仕方なくなります。早く付き合ってください。

 

終電にはかえします

仲良くなったあさぎとツネ、かわいいふたりの休日デートが描かれます。すらっとして背の高いツネのミニスカート姿が貴重!フードコートでごはんを食べたり、あさぎの卒業祝いにネックレスを買ってあげたりする二人は、まるで恋人同士のようです。しかし、もうすぐあさぎは大学生。春になったらふたりは離れ離れになってしまうのです…。

 

些細な言葉がきっかけで気まずくなってしまうふたり。焦ったあさぎは思い余って、「私がツネのことすっごい好きなのちゃんとわかっててよー!!」とツネに告白してしまいます。

 

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(「終電にはかえします」p44)

 

あさぎの言葉にぼろぼろ泣いてしまったツネ。改めて互いの気持ちを確かめ合うことのできたふたりは…?

 

「ツネと二人 行き先のみえない電車にのりました 

少しこわいけど きっと楽しいデートになるはずです」

 

最後に差し込まれるこのモノローグが特にお気に入りです。同性同士の関係は大変なこともあるかもしれないけれど、ふたりならきっと大丈夫。希望のもてる未来が待っていることを予感させる爽やかなラストです。

 

少女プラネタリウム

学校では大人しくて無表情なクラスメイト、サトウさん。彼女の笑顔を、偶然道端で目にしてしまうスズキさん。プラネタリウムのきれいな星空を見上げるサトウさんのきれいな横顔を見たスズキさんは、もっと彼女のことを知りたいと思いました。ちょっとずつ近づいたり離れたりする二人のもどかしい距離感がたまりません。

 

一瞬のアステリズム

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(「終電にはかえします」p95)

 

蝶子、はなちゃん、蜜美。三人の女子高生の、一方通行の三角関係が描かれます。ちょっと変わっているけれどこういう選択もありかな、と思える不思議なラストが印象的。

 

永遠の少女

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(「終電にはかえします」p116)

 

みさおが子どもの頃からそばにいた黒髪の女の子、みずき。彼女の正体は病気で亡くなった幽霊の少女でした。時が経つにつれてどんどん成長していくみさおに反し、みずきの時間は止まったままです。みさおウェディングドレスを目にしたみずきは…。あまりに意外なエンディングが心に残ります。

 

大人の階段の下

癖っ毛に悩むナツ。お姉ちゃんが家に連れてきた美少女、久我さんの黒髪に憧れて、彼女が使っているものと同じ椿オイルを手にいれます。お姉ちゃんはいつもナツに好きなものを譲ってくれるけれど…?ちょっと切なくて胸がきゅんとするお話です。

 

少女星図

「少女プラネタリウム」のスピンオフ。タイトルとの関連性がかわいらしいです。

 

最後に

人を好きになること、大切に思うことの楽しさと苦しさが描かれています。何度も本棚から抜き差ししている一冊ですが、読み返すたびに「恋する女の子って本当にかわいいなあ…」と胸をきゅんきゅんさせられます。頬を染めてそっぽを向く女の子、失恋して泣きじゃぐる女の子、大切なものに手を伸ばす女の子。女の子のいろんな気持ちがぎゅっと凝縮されたすてきな作品です。

 

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百合作品ならこちらもオススメ!

【趣味と年齢】「好き」を貫くことの難しさを描く「コンプレックス・エイジ」感想

社会からの偏見、加齢などの問題によって、大好きな趣味をあきらめなければならなくなったとき、あなたはどうしますか?

今回はゴスロリ、アイドル、コスプレなど、周囲から理解されづらい趣味を持つすべての方に読んでほしい作品、佐久間結衣さんの「コンプレックス・エイジ」をご紹介します。

 

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(本作は2015年9月に発売された6巻で完結しています。)

 

「楽しめ。血を流しながら。」 

 

簡単なあらすじ

主人公の「片浦渚」は26歳の派遣社員。高い身長がコンプレックスだった渚はある時、小さくてかわいらしくて、自分の持っていないものを全て詰め込んだような魔法少女「ウルル」に出会います。それから彼女は「コスプレ」という趣味に夢中で打ち込むようになりました。衣装をつくり、ポージング教室に通い、表情を練習し、アニメからそのまま抜け出したような、「完璧なウルル」を目指して。しかしそんな渚の前に現れたのは、自分よりも若く、背が小さくて、自分よりもずっと「ウルルらしい」女の子、栗原綾という少女だったのです…。

 

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(「コンプレックス・エイジ」42p)

コスプレを愛する主人公が直面する「現実」

本作品は一般的に理解を得ることが難しい、「コスプレ」という趣味に対する周囲の偏見が描かれており、コスプレイヤーの渚は居心地の悪さを感じています。

 

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(「コンプレックス・エイジ」143p)周囲からの偏見

 

コスプレという趣味が抱える問題はそれだけではありません。

写真を求められ最高の笑顔をきめているとき背中に浴びせられる、「デカババアキモッ」という罵声。ネットブログにさらされる、下着のみえた自分のコスプレ写真。「加齢」「男性からの視線」など、読んでいるだけで胸がじくじく痛んでくるような現実が次々と渚に降りかかってきます。渚は気にしないよう努めていますが、その姿がまた痛々しくもあります。

 

「コスプレ」という趣味の「楽しさ」

そんなに苦しい思いをしてもなぜ、彼女はコスプレという趣味をあきらめないのか。

努力を重ねて憧れのキャラクターに近づこうとすること、写真に収めた自分の姿に出会うこと。「コスプレの魅力」が熱っぽく描かれています。コスプレに関してまったくといっていいほど知識がない私ですが、キャラクターの体型や衣装を再現するのにかけている労力と時間にはとても驚かされました。

 

同時掲載・コンプレックス・エイジ読み切り版

本作1巻には、「コンプレックス・エイジ」の元になった作品も掲載されています。
こちら読み切り版の主人公は「ゴスロリ」を趣味とする、35歳の既婚女性「佐和子」。「渚」と同じように、加齢によるジレンマと偏見に対する悩みを抱いています。

 

私の心を刺したのは、お茶会で若い女の子が佐和子にかけた心無い言葉です。

「引際って大事なんだって 若い内って努力でなんでも出来ちゃうじゃないですか でもそれって永遠じゃないんですよね」

つらい…。趣味にも引際があるんでしょうか。

 

佐和子は終盤、鏡に映った自分の姿を不意に見て衝撃を受けます。

 

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(「コンプレックス・エイジ」p175)

 

お姫様のような衣装を身にまとうことに夢中だった佐和子の心を打ち砕いたのは、「いつのまにか老けていた自分の姿」でした。

 

年齢を重ねるうちにゴスロリが似合わなくなっていた自分に気づいた佐和子は、大切な「趣味」を火にくべて、夫の胸で泣きじゃぐります。どんな時もそばにいてくれる大好きな人の存在を知った佐和子は、街中でかつて夢中になっていたゴスロリ服を目にしても、後悔を感じることはありませんでした。すっきりとした顔をみせるラストは思いの外爽やかです。

 

佐和子は趣味と決別しますが、果たして「渚」は今後数ある選択肢の中から、何を選び取るのでしょうか?彼女は自分の「好き」を貫くことができるのでしょうか。

 

最後に

「理想と現実のギャップ」「女性の加齢」「周囲からの偏見」等々、重いテーマを扱っています。心に深く突き刺さるセリフやモノローグが多いので、覚悟を持って読むことをおすすめします。しかし、高い壁にぶつかっても諦められないコスプレという趣味の「やめられない楽しさ」もまた描かれており、好きなことに情熱的に打ち込む渚たちの姿はとても素敵だし、応援したくなります。コスプレのことをよく知らない方でもどこかに共感する部分があるのではないかと思います。是非お手にとって読んでみてはいかがでしょうか?

 

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【密度の高いギャグ漫画】アラサー女性が思いの丈をぶちまける「波よ聞いてくれ」感想

いきなりですがラジオが好きです。毎週木曜日の10時からは、大好きなアイドルによるラジオ番組が放送されているのですが、その時間が近づくといつもソワソワしてしまいます。


ラジオにはふたつの魅力があるように思います。1つ目は、「いつでもハプニングが起こりうること」。例えばリスナーと繋げた電話がいきなり切れちゃったりすると、パーソナリティの咄嗟の面白い反応が伺えたりします。2つ目は、「話し手との距離が近いこと」。観客の顔がみえないせいか、テレビに比べ本音でしゃべっている印象を受けます。あなたの好きな芸能人も、新しい一面を見せてくれるかもしれません。


今回はラジオと恋愛についての作品、「波よ聞いてくれ」というタイトルの一冊をご紹介します。作者は「無限の住人」「ハルシオン・ランチ」で知られる沙村広明です。

 

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鼓田ミナレというキャラクター

おしゃれなカレー屋でバイトをしながらなんとか日々の生計を立てている、本作の主人公「鼓田ミナレ」は、オーバー25の独身女性。彼女のたぐいまれな個性は、その場にいる人を巻き込むマシンガントークです。彼女の巧みな喋りには、人が心の奥で思っていることを明確な言葉にしてくれるような爽快感があります。

ミナレには酔っ払うととんでもないことをしでかす癖があるのですが、クダを巻きながらうっかり暴露してしまった失恋話もその一つ。彼氏への恨みつらみを傍で聞いていた初対面のラジオ局員によって録音された挙句、なんと生放送のラジオで流されてしまいます!

怒りと恥ずかしさにまかせバイトをほっぽり出し、ラジオ局に乗り込んで(不本意ながら)放送をジャックしてしまうミナレ。彼女はマイクに向かって思いの丈をぶちまけるのです。

 

「私は彼の独善的な部分を男系社会だから まーしゃあないかなと放置していました ラクだったからです カテゴライズして諦めれば彼の欠点に真摯に向き合わずに済んだからです

「多分 彼は彼で私に対してそうだったんだと思います その結果 彼は犯罪紛いの事をして私から去っていきました こんな虚しい男女関係ってあるでしょうか!?…」

 

口達者な話術でリスナーを巻き込んだミナレは、そして最後に叫ぶのです。日本のどこかで放送を聞いているかもしれない、逃げられた彼氏「光雄」に向けた怒りを込めた一言を…

 

「そして最後に言わせてください

光雄!お前は地の果てまでも追い詰めて殺す!

 

アー、かっこいいですミナレ姐さん!この一ページを捲った瞬間、全身がビリビリ痺れるような衝撃が走りました。

以上のご縁(?)をきっかけにラジオ局からスカウトされるミナレ。強面顔のディレクターにまんまと乗せられ、自分の冠番組を持つ羽目になります。冠番組の名前は、そう、タイトル「波よ聞いてくれ」!ラジオとカレー屋のアルバイトの仕事を掛け持ちしながら、ミナレの新しい生活がスタートすることに。

 

ハイテンポで進むシュールなギャグ

この作者にしか描けないような、テンポのいいギャグが作品の魅力の一つ。私のお気に入りは、酔っ払って帰宅、自宅に侵入した暴漢を背負い投げ、警察に通報したはいいものの…ミナレが寝っ転がっていたのは、階下の住人である「沖さん」という男性の部屋の玄関先だった、というおばかなエピソードです。沖さんはいつも酔っ払ったミナレを上まで背負って届けてくれていたことが発覚し、ミナレは「公害レベルの破滅型」であったことが分かるのです。彼女の酔い癖の悪さに笑いを堪えきれませんでした。

 

ミナレを取り囲む個性的な面々

ミナレのカレー屋の店長は、おしゃれなコンセプトが大好きな中年のゲイ。ミナレを慕うカレー屋の後輩、中原くんは熱血青年で引くことを知りません。ラジオ局で働く瑞穂ちゃんは温和で家庭的な女の子だけど実は超の付く几帳面な一面が。後半登場する一癖二癖もありそうな美人はなにやら不穏な空気を漂わせており、ディレクターはキツイ正論でミナレの心をグサグサ刺しつづけます。実にアクの強い面々が揃っており、ミナレと彼らの会話の応酬は痛快です。

 

最後に

濃いキャラクター、良く練られたエピソード、逸脱なギャグに加え、丁寧に書き込まれた背景や小物が印象的。熱量の込もった太い線で引かれる衝動は心に突き刺さるようです。熱くて笑えて面白い漫画が読みたいな、という方にぜひ、お手に取っていただきたい作品です!

 

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あの頃大好きだった友達は、今どうしているんだろう。「あんずのど飴」感想

中学生のとき、高校生のとき、いつも一緒に笑い合っていた友達のことを思い出して切なくなることはありませんか?

 

先の見えない不安な進路、クラスで気になる男子、面白いテレビや、お気に入りの芸人の話。一度口を開けば、とめどなく話題が出てきて、時間が過ぎるのがあっという間だったのに。
大したことじゃないことで気まずくなって距離の開きは埋まらずに、いつのまにか連絡先も知らないほど遠くなってしまった、大好きだった友達がいます。
今更どうしようもないことですが、思い切って歩み寄ってみたら何かが変わっていたのかなあと考えることがあります。


今回ご紹介するのは、些細なことで変化していくふたりの少女の友情を丁寧に描く「あんずのど飴」という青春物語です。

 

冬川智子「あんずのど飴」

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あらすじ

この甘さが、私にあの頃を振り返らせる。
田舎の高校。なんにもない風景。ささやかな友情。淡い恋心。そして、すれ違い――。
10年ぶりに振り返る、あの頃。夢とか希望とかよくわからなかった、あの頃。
平凡な女子高生だった、あの頃。私が大好きだった彼女は、今どうしているんだろう。
『マスタード・チョコレート』で第15回文化庁メディア芸術祭マンガ部門新人賞を受賞した気鋭の著者による、切なさあふれる青春物語。

 

作品の特徴

1、キャラクターの顔はまるっこくデフォルメされており、シンプルな猫線にあたたかみが感じられる独特な絵柄です。
2、大きな出来事が起こるわけではなく、ふたりの関係性が変化していく様子を淡々と描いています。離れていくふたりの距離に、切なさを煽られます。
3、登場人物の心の機微がよく伝わってくるモノローグがとても印象的です。

 

ふたりのキャラクター

主人公の要(かなめ)は長いストレートの黒髪の個性的な顔立ち。何でもそつなくこなせて、周囲から尊敬される存在です。友人のはるかはさえない女子高生。彼女は眉毛を抜いて、スカートを短くして、どんどんおしゃれな女の子になっていきます。

はるかは男の子に恋をして、ブランドやかわいい雑貨に関心を持つようになり、要とはまるでタイプの違う女の子とばかり話すようになります。そして要が気づいた頃には、ふたりの距離はもう簡単には埋められないほど、大きく開いていたのでした。

 

「はるかと私の間には、小さな、川のようなものができていた。対岸にいるはるかは、あまり笑顔がなくなっていって、川はどんどん大きくなっていくのだった。」

 

しかし、関係がこじれつつあることに気づきながらも、はるかをいつでも大切に思う要の姿は非常に健気です。はるかが貧血で倒れたときには要がまっさきに駆けつけて、保健室に運んで看病するし、クラスメイトの女の子にはるかの性格を悪く言われたときには、そんな子じゃないよときっぱり否定する優しさがあります。それでも結局、ふたりは仲良くお弁当を食べていたころのように、何でも気軽に話せる気ごころの知れた関係に戻ることはできませんでした。

 

「要ちゃんて何もしなくてもなんとなく一目ひいて、目立ってたし、私ばかり頑張って、馬鹿みたいだったなあ」 

 

同窓会で語られる、はるかの本心からの言葉はとても切ないです。はるかは何でもできる要がうらやましく、そして妬ましかったのかもしれません。だから要から距離を置かずにはいられなかった。はるかの苦しさがこの言葉から垣間見えるような気がします。

 

最後に

シンプルで単調だからこそ、感情を揺さぶられる作品。作者さんの瑞々しい感性に惹かれます。かつて中学生、高校生だったすべての人に、自身の青春時代を思い返しながら読んでいただきたいです。かけがえのない友人といっしょに時間を過ごした「あの頃」に、思いを馳せてみてはいかがでしょうか。

 

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【直球百合で脱王道】恋を知らない少女と少女。「やがて君になる」感想

今回ご紹介するのは、仲谷鳰「やがて君になる」(電撃コミックスNEXT)

電撃コミックス大賞金賞を受賞した新人作家さんの描くガールズラブ作品です。

 

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 わたしを好きな、わたしの先輩。
 好きを知らない少女が出会う、一筋縄ではいかない恋愛。 

 

あらすじ

人に恋する気持ちがわからず悩みを抱える新入生・小川侑は、生徒会の先輩・七海燈子が告白を受ける場面に遭遇する。誰からの告白にも心を動かされたことがないという燈子に共感を覚える侑だったが、やがて、燈子から思わぬ言葉を告げられる。「私、君のこと好きになりそう」

 

作品の特徴

線の細いきれいな絵。登場人物の繊細な感情の動きを、セリフやモノローグなどの言葉だけでなく、絵やコマ割り、トーンなどの表現によって伝えているところが面白いです。適度な「間」によってゆったりとした空気感が伝わってくるところが素晴らしいと思いました。

 

恋を知らない少女の「不安」と「焦り」

当たり前のように恋愛を楽しむ周囲の友人たちに焦りを感じながら、この先もしかしたら人を好きになることなんてないかもしれないと不安を抱える侑。恋を知らない侑にとって、「好き」を見つけた先輩の姿は、まぶしい光に包まれているように見えます。

「ずるい 七海先輩はわたしと同じだと思ったのに 手を握ったくらいでそんな顔するなんて 先輩はもう特別を知ってるんだ」、恋ができない侑の不安と焦り、そして「恋愛への欲望」を感じさせるモノローグが印象的でした。

 

キャラクターの外見と内面のギャップ、ストーリー展開が新鮮!

本作品は「侑」と「先輩」、ふたりの少女の関係性の変化、それに伴うキャラクターの内面の揺れ動きを描いています。


ショートヘアを無理やり二つ結びにしたような髪型の「侑」は、どちらかというと「かわいい」見た目の女の子。しかし、彼女は先輩とのファーストキスにも心動かされない、(頬も染めない!)ドライな性格の持ち主です。
一方、黒髪ストレートロングの生徒会長、絵に描いたような優等生の「先輩」は「クール」な容貌をしています。ところが、話が進むにつれて彼女は「侑」を好きな気持ちを抑えられず、彼女に甘えたり、甘い言葉をつぶやいたりするようになります。ふたりのキャラクターの外見と内面とギャップに驚かされました。

 

また、ストーリー展開も新鮮。単巻ものばかりだからか、百合作品の多くは「出会い」→「恋に落ちる」→「告白」→「実は両思いだった」→「付き合う」といったように、とんとん拍子に事が進む印象を受けます。

しかし本作品は「一筋縄ではいかない恋愛」を描いており、「侑」は今のところ先輩を好きになる様子を見せていません。「百合」作品としてみても、ゆっくり進展する少女同士の関係を楽しむ事ができる、新しさのある作品ではないかと思います。

 

最後に

絵がきれいで、ストーリー展開やキャラクター設定が斬新な作品です。「百合」が好きな方にはもちろん、そうでない方も楽しめる作品なのではないかと思います。少しずつ変化していくふたりの関係性に心揺さぶられてみませんか。

 

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【アラサー女子×朝食マンガ】朝ごはん、ちゃんと食べてますか?「いつかティファニーで朝食を」感想

 

今回ご紹介するのは、マキヒロチ「いつかティファニーで朝食を」です。
表紙は映画「ティファニーで朝食を」の一場面を連想させます。オードリーヘップバーンの衣装を着た主人公、麻里子が朝ごはんを食べている様子が描かれています。ごはんと納豆と鮭、味噌汁のメニュー、おいしそうな日本の朝ごはんです。

 

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あらすじ

東京で暮らす28歳の佐藤麻里子は、かつての豊かな朝ごはんを楽しむ生活を取り戻すべく、方針を改めるのだった。実際の美味しい朝食のお店を巡りながら、生き方を変えて自らを再生する「朝食女子」たちの姿を描く新感覚ストーリー!

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1巻に収録されているお店は、グッドモーニングカフェ、和食かとう、ル・パン・コティディアン、bills、ウェスティンホテル東京、謝甜記の5つ。和食から洋食、中華まで様々な朝ごはんが掲載されており、読んでいるだけでお腹がすいてきます。

巻末には店のガイドと詳細なメニューの検索と「みんなの朝ごはん・朝食レシピ」など様々な情報が掲載されており、お得感があっていいなあと思いました。

 

主なキャラクターは下記の4人です。
・麻里子 ファッションの仕事、7年同棲した彼氏と別れ、新居で一人暮らし。
・典子 バーの雇われ店長、不倫中。
・栞 主婦、毎日子育てに大忙し。
・里沙 ヨガのインストラクター、自分に厳しい。

 

登場人物たちはいわゆる「アラサー」女子。仕事に恋に、大忙しの毎日を送っています。ときには、友達が自分より幸せそうに思えてうらやましくなったり、答えの出ない問題にあれこれ考えを巡らせてしまったり、大切な人の些細な一言にひどく傷ついて落ち込んだり…。あ、こういう感情、わかる!わたしも知ってる!と、登場人物の抱える日常的な悩みに共感します。

 

登場人物が壁にぶつかったときに登場するのが、作品の第2の主役である「朝ごはん」。つかれているとき、辛いことがあって落ち込んでいるとき、作りたてのおいしい朝ごはんを食べると、彼女たちは「今日もがんばろう」と思えるのです。

 

最後に

 

この作品はただのグルメ漫画ではありません。恋も仕事も、前向きにがんばるリアルな女性たちの姿が描かれています。読み終わったときにはお腹が空いて、元気がもらえる素敵な作品です。現在トリンドル玲奈さん主演のドラマが放送中ですので、そちらも合わせてご覧になってはいかがでしょうか?

 

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